異端の奇才 ビアズリー展

三菱一号館美術館で開催されていた、ビアズリー展に行ってきました。

ビアズリーを知ったのって、いつだったんだろう。多分かなり若い頃に『サロメ』かなにかの挿絵で出会ったのだと思うのですが、知った当時は、なんというかあの、19世紀末のヨーロッパを強く感じさせる繊細で有機的でちょっとグロテスクなイラストレーションに不気味さを強く感じて、好きと言うよりは「怖いもの見たさ」みたいな気分だったように思います。

でも今見ると、その不気味さこそが時代で、この人の味なのだなあと思うのだからふしぎ。

――なにしろ、彼が生きた時代は世紀末、華やかなりしベルエポック、爛熟のヨーロッパ……という時期。有機的で曲線の美しいアールヌーヴォー、幾何学的で直線の美しいアールデコ。失われつつある自然や地方の文化を愛して古代を懐かしみ、その美しさや素朴さを称えたりリバイバルさせたりしつつも、日々技術が進歩して新しいものが生まれることで旧き良きものは失われていく……、という時期です。
(とはいえ、人類の歴史ってずーっとそうではありますよね。とくに産業革命以降は「昔は良かった」みたいな話が色々な人の手でずーっと書かれ続けているし、今現在にもそういう風潮はありますし……)

しかもその裏側には当時の軍国主義とか植民地主義とか、そういう時代背景もあるのですから、なんというか退廃的というか重苦しさを華やかさで覆い隠していたというか……、木の幹に成ったままの果実が熟れすぎて芳香を放ち、そのまま今にも落下しそうな……、美しいお菓子の表面をぺらりとめくったら、その下は使っちゃいけない食材が使われていそうな……、そういう「陰と陽」を感じます。

特に、ビアズリーから感じるのはこの「陰」の部分でしょうか。描かれる人間は決して美形ではなくどちらかというと醜い顔をしていて、体付きも美しくはないのですが、その身にまとう衣装や背景は洗練されて美しく、シチュエーションは官能的で秘密めいていて、そしてなんといっても、黒一色で描かれた滑らかな曲線がなんとも言えず美しいのです。
美しい線で描かれる、美しいものをまとった醜い人たち。どぎまぎしてしまいます。

……ところで、絵画とイラストの違いってなんでしょうか。ビアズリーの挿絵やミュシャのポスターは、絵画というよりイラストだと感じるのですが、あまりその違いを意識したことって無かったかもしれません。

軽く調べてみると、絵画は画家の自己表現であり、絵そのものを描くことが目的で、鑑賞時も絵そのものを見るもの。イラストは、何かを相手に伝える為に描かれるもので、必ずしも画家の自己表現ではなく、鑑賞時も絵そのものでは無くてそれが利用されたものを鑑賞することがある、というようなことのようです。(ちょっとふんわりしていますね)

ざっくり言うと壁に飾られているような絵は前者、挿絵とかポスターとかは後者、ということでしょうか。
たしかに、ミュシャのポスターは、舞台やたばこなどを宣伝する為に描かれていますし、ビアズリーの絵も、物語の内容を伝えるための挿絵(とはいえ内容との乖離に怒られたりしていますが、彼にとっては物語の内容はイラストに描いたようなものがイメージだったのでしょう)です。浮世絵なんかもイラストだと感じていたのですが、あれも役者絵や名所絵で、絵そのものを見るだけでなく、絵に描かれたもの(人や土地)に思いを馳せる為のものですものね。

こう考えてみると、商業的な目的を持って描かれ、複製を前提とするケースが多いのがイラストで、基本的には複製は想定しないものが絵画なのかもしれません。そうすると、ビアズリーの絵はおそらくは「イラストレーション」にあたるものなのでしょう。挿絵や表紙などを多く手がけたようです。

しかしこの、ビアズリーという青年、大変短命でした。子どもの頃から絵を描いてはいたそうですが、雑誌や挿絵等での活動は5年ほどです。そのたった5年の中で、流行画家になり、オスカー・ワイルドのスキャンダルに巻き込まれて社交界から爪弾きにされ……、25歳で結核で亡くなりました。
……なんとまあジェットコースターのような人生でしょうか。想像するだけで目眩を覚えます。

彼の死去した年齢を思って改めて絵を見てみると、この繊細さや題材、雰囲気などは、彼が若かった故のもののようにも思えてきます。彼が老年まで生きていたら、その絵はどうなったでしょう。時代も変わるし、流行も移り変わって行きますし……特に、二度の世界大戦を挟んだ先の時代は全く雰囲気がちがいますものね。
そんな時代に生きていたら、彼はどんな絵を描いただろう。全然変えずに貫いたかしら。色を使うようになったかしら。そういうのを想像しては、「見てみたかったなあ」とため息です。

そんなビアズリーの絵を、たっぷり見られてとっても満足。良い展示でありました。

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