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正倉院とハプスブルク

Date : 2019-12-03

冷たい雨がしとしとと降っていた某日、上野で博物館のはしごをしてきました。

お目当はトーハクで開催されていた、御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」と、西洋美術館で開催中の「日本・オーストリア友好150周年記念ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」です。
どちらもいわゆる国宝的なものの展示であることは同じですね。

お天気はいまいちでしたが、紅葉はちょっとすてきなかんじ

正倉院の世界展

まず朝一番で向かったのは、トーハクの「正倉院」展。令和の天皇陛下の御即位記念とのことで、貴重な宝物がたくさん展示されていました。その中で、私が特にグッと来たものがふたつ。

1)蘭奢待

蘭奢待――宝物としての目録では「黄熟香」という名で掲載されているそうですが、おそらく日本で一番有名な「香木」です。分類としては「伽羅」だそうですよ。織田信長や足利義政、明治天皇の「切り取ったあと」がラベリングされている写真で有名ですよね。これの現物が展示されていました。
私のイメージでは、腕に抱えられるくらい――具体的には成猫くらいの大きさだったのですが、現物はどっしりと大きな流木……でした。専用のお櫃に成人が入れるくらい。一人で持ち上げるのはとても無理そうだし、女性ふたりでも運べなさそうな大きさです。この大きさにぽかーんとして、記憶にくっきり焼き付いてしまいました。(とはいえあとから調べたら、芯の部分が中空のため、12kg弱くらいの重さらしいです)
それから「蘭奢待」が「東大寺」の「雅名」であるということを知り、ほほう、と脳裏に刻み込まれたのもまたひとつ。「蘭」「奢」「待」のそれぞれに、「東」「大」「寺」の文字が隠れている、ということなんですって。今こそ昔懐かしの「へえボタン」を連打したい気持ち……。

ところで、「伽羅」は「沈香」の最上級、だと思っていたのですが、なにかの折に調べたら、「材質は同じながら性質がかなり異なる」ものだそうで、必ずしもこの表現は正しくないのだとか。沈香はそのままおいておいてもあまり香らないらしいのですが、伽羅はそのままおいておいてもよく香るものらしいです。
……火をつけなくてもいい匂いだよってことなのだろうか? よくわからないけど、なんかすごそう(語彙力がない)。
蘭奢待の香り、かいでみたいですね……!

2)五弦の琵琶

会期が後半になってしまっていたため、最も有名な五弦の琵琶である「螺鈿紫檀五弦琵琶」(教科書に掲載されている、ラクダに乗った僧侶? の螺鈿がきざまれている琵琶です)は見られなかったのですが、同時代の「四弦琵琶」が展示されていました。でも、記憶に残っているのは「五弦琵琶」のほう。
螺鈿紫檀五弦琵琶の非常に精巧な復元品が展示されていたのですが、これを復元した時に「演奏した」という録音が、展示室にずっと流れていたのです。これが、非常にいい音で……。琵琶の音を擬音で「嫋嫋(じょうじょう)」などと書くようですが、胸に染み入る、なんともエキゾチックでどこかもの悲しげな、しかし膨らみのある甘い音でした。沈香の香りとかに似ている気がする。
この「五弦琵琶」、なんと奏法はすでに途絶えてしまっているものらしく、今に伝わるのは「四弦」のものの奏法なのだそうで、実際の五弦がどのように演奏されていたのかは、よく分かっていないそうなのですが、そこがまた、古の時代への不思議な憧れのようなものを余計に掻き立てるように思いました。
ところで琵琶、マンダリンみたいな形をイメージしていたのですが、厚みとしてはギターよりちょっと薄いんじゃない? というくらいでした。これにもちょっと驚いたなあ。

ハプスブルク展

さて、お次はシルクロードをずーっと遡り、トルコよりさらに向こう、騎馬民族が反対側に向かった先――オーストリアはウィーンの、ハプスブルク家の展示です。こちらはおそらく人々が「ヨーロッパの王宮」と聞いて多くの人が思い浮かべるだろう、華やかでデコラティブ、きらびやかでめずらしやかなものがこれでもかと詰まっています。

マクシミリアン一世の甲冑から始まり、スペイン系ハプスブルク家のマルガリータ王女(有名な青いドレスの少女の肖像です)、女帝・マリアテレジアや、王妃マリー・アントワネット、悲劇の王妃エリザベート、そしてフランツ・ヨーゼフ一世まで、西洋史に名を刻むお歴々の肖像や、彼ら・彼女らが愛し、集めた数々の品が、ぎっっしり詰まっています。

わたしはいわゆる「肖像画」を見るのがとても好きなのですが、特に王家に属するような人たちの肖像は、当時の流行であっただろう衣装を身につけているので、それを見ているだけで想像の翼が羽ばたきまくりです。
鮮やかなドレスは何で染めたものだろう、このレースは一体どれほどの職人がどれほどの時をかけて作ったのだろう、真珠一粒で家が建つような時代にこれほどびっしりの真珠を縫い付けた衣装の絵を書かせるとは一体どれほどの財を誇ったのか……などなど。見ているだけで当時のあれやこれやを想像できて、大変楽しいのです。
もちろん、顔立ちや化粧、表情などを見て、人となりを想像してみるのもまた面白く。マルガリータ王女の肖像はあどけなく愛らしく、しかしこの絵が「婚約者」に送られるものだったためか、どこか緊張した面持ちで。マリア・テレジアの肖像は、30歳の頃にかかれたものとは思えぬ為政者の迫力に満ちていて。晩年のフランツ・ヨーゼフ一世の私的な肖像は、威厳のある矍鑠とした老人の姿でありながら、どこか力の抜けたような柔らかいような、確かに「私的なシーン」で描かれたものなのだろうなと思わせたり。そういった、「もしかしたらこういうシーンだったのじゃないかな」を想像してみるのが、とても楽しいのです。

肖像画以外も、巨大なタペストリーや、食器、アクセサリー、武器、宗教画など、ハプスブルク家のコレクションがこれでもかとてんこ盛り。ワクワクするものがたくさんありましたよ。

しかし、これらを見ていたら、また、ウィーンに行きたくなってしまいました。随分前に一度行ったのですが、その旅はプラハとウィーンの2都市滞在だったので、あれもこれもは時間が許さず、見逃したものがたくさんあったのです。
行きたいなー。

ゴシック写本

……ところで。
ハプスブルク展の裏で常設展で展示されていた「内藤コレクション展「ゴシック写本の小宇宙――文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵」、これがなかなかのボリュームでしたので、聖書の装飾写本などがお好きな方は、こちらも覗いていかれると楽しいかと思いますよ!
なお、入り口で流されていた動画(8分くらいある)が、装飾写本の模写の作業工程で、見ていて大変飽きないですので、お好きな方はお見逃しなく……!

ところで、なんかすごいモネが新収蔵されてた

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