アクロマさんとマコモさんは、研究内容も若干被ってるし、
学生時代の後輩と先輩だったりして、色々あったりしてたらいいなあ……。
いっそ今も、いろいろあったりしてればいいなあ……。
というTwitter上の妄想から生まれたおはなし。
オトナです。
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「ねえアクロマくん、ハサミ持ってない?」
「ありますが、何に使うんです」
掛けられた声に振り返れば、彼の人は難しい顔をして寝台に座り込んでいた。
「切るのよ」
「でしょうね。何をですか」
卓上でハサミを探しつつ、およそ科学者らしからぬ要領を得ない答えに、ため息をつきながら彼はまた問う。
彼女はイッシュでは名の知られた研究者である。一見おっとりとした風貌とは相反した明晰な頭脳、斬新な切り口で人々を驚嘆させる才媛だ。アクロマも、壇上に立つ彼女の姿を何度か目にしているから、それが現実だと知っている。
……しかしどうしたことか、彼の前に姿を現す時の彼女はいつだって、童女の様に幼い素振りをしてみせるのだ。
「ねえ、ハサミ」
「少し待ってください。……ですから、何を切るんですか」
彼女といるとため息がつきない。デスクの奥底に眠っていたハサミを引っぱり出しながらもう一度振り返ると、彼女――マコモは珍しくも、眉根を寄せていた。
「……どうしたんです?」
「ハサミあった?」
「ありましたが……だから」
「見てわからない? 髪が絡まっちゃったのよ」
白い指が、白衣を摘む。上から2つ目のボタンのところに、マコモの黒々とした長い髪が、わだかまって絡まっていた。
「ゴロゴロしてたら引っ掛けちゃったの。ハサミ貸して」
「切るんですか」
「こうなっちゃうとどうしようもないのよ。ハサミ貸して」
蛍光灯の光を弾くハサミの刃の向こうで、同じ光を受けて、黒い髪がぬめぬめと光る。
彼は嘆息した。――惜しい。そんな言葉が脳裏を駆けたことを、アクロマは渋々ながら認めたのだ。手にしていたハサミを、卓上のペントレイに、カタンと戻した。
「おやめなさい、髪は女性の命とも言うでしょう」
「……キミ、変なところで古風よねえ。じゃあどうしろというの?」
「わたしがほどきます」
眉根が開き、マコモの青みがかった黒い瞳が大きく膨らんだ。青い光を映してぱちぱちと瞬く。
「キミが?」
「ええ。貴女よりは器用でしょうから」
両の手袋を外し、白衣を羽織った彼女に近づく。
目の前に腰を下ろせば、少女のような年上の人は、少し笑った。
「キミ、長い髪が好きよねえ」
「ええ、短いよりは。梳る前に白衣を羽織るのをやめたら如何です」
「だって肌寒くて」
「言えばいいでしょうに。……しばらく動かないでください」
「はいはい、よろしくね」
それきり大人しく黙り込んだ人の胸元に手を伸ばす。
誰の髪でもいいわけではないのだが、そんなことを言うつもりもない。長い付き合いというのは厄介だ。
またひとつ嘆息し、白い生地の向こうに見える白い肌に気が付かない振りをして、アクロマはそっと、指を滑らせた。